SCTE Cable Tech EXPO 2020 – ネットワークの遅延とジッタ―

米国EDTの10月12日(月)14:00PM-15:15PM、”Latency Labors: Solving for the (Super Low) Requirements of What’s Coming”というセッションが開催されました。
本セッションは、複数ユーザ参加型オンラインゲームや共同リモートワークツールで需要が急増しているネットワーク遅延を如何に低減できるか?に関するものでした。

最初にカナダの大手MSOであるShawのColin Dearborn氏が、Shawによる遅延・ジッタ―の改善努力について説明しました。
2019年の収入ベースでビデオゲーム市場の1,201億ドルに対し、映画市場が425億ドルとほぼ1/3だそうです。私自身はゲームは全くやらないので正直ピンと来ませんが、映画市場の縮小は納得の行く話なので、まあそうかもとは思いました。拡販戦略の重点対象を既に成熟した映画市場から成長著しいゲーム市場に移したいのであれば、マルチユーザー型ゲームがより快適に楽しめる低遅延のネットワーク環境の整備・提供努力が大事になってきます。Colinによると、Shawを含めた一部のISPでは、自ネットワークの遅延特性を拡販目的で積極的に公表しているとの事です。
FTTHはHFCよりも低遅延を謳っていますが、某比較サイトの公開情報では、Shawの16msに対し小規模FTTH事業者のNovusは30msと、必ずしもFTTHが低遅延とは言えない結果となっているそうです。遅延の発生要因は、宅内、DOCSIS伝送、ISPコア、インターネットの各部分にそれぞれ存在し、それぞれでメカニズムが異なるとの事です。
宅内ではWiFiが遅延の主要因ですが、AQMやWiFiMultimediaの有効化である程度の改善が見込めるそうです。DOCSISではMAPインターバルの1ms以下への抑制、CM/CCAP双方へのAQM有効化、下り伝送のOFDM化(DOCSIS3.1)が効くそうです。コアでは経路・メトリックの最適化が効くそうです。というのは複雑化したISP内のネットワークではホップ数が必ずしも遅延に比例する訳ではないため、各ホップの遅延を個別に計測、最小遅延の経路を割り当てる設定が求められるそうです。
将来的には、宅内ではWiFi6のOFDMA化とCable Labs.が開発したデュアルチャンネルWiFiが効くと考えているそうで、デュアルチャンネルWiFiとは上り・下りで別々のチャンネルを使う方式だそうです。DOCSISでは”Low Latency DOCSIS”のデュアルキュー・プロアクティブグラントサービス・上りスケジューリング改善が、コアではネットワークの自律最適化機構の実装とエッジコンピューティングが効くと考えているそうです。
結論としては、HFCはHTTHに対して現状・将来共に必ずしも不利ではなく、少なくともShawは低遅延競争上の観点からはポジティブに捉えているとの事でした。

次にCable Labs.のKarthik Sundaresen氏が、遅延・ジッタ―の発生メカニズムとパッシブ・アクティブ等各種の測定・評価方法について概説しました。

続けて米国の大手MSOであるComcastのSebnem Ozer氏が、Comcastによる遅延の改善努力について、前発表者のKarthikの測定・評価方法に準ずる形でComcastでの実測結果等を説明しましたが、特にAQMの設定調整による定量的な改善効果の例示が興味深かったです。
低遅延を達成するために必要なシステム構造として、SDN/NFV的な視点からのAIを組み込んだ自律オーケストレーションが今後重要になるとの意見にも納得です。

最後にCommscope社のTushar Mathur氏が、”Low Latency DOCSIS (LLD)”の技術方式を概説しました。

5Gに代表される高速・低遅延ネットワークの実現には、従来の速度だけではなく、遅延・ジッタ―にも重点を置く必要があり、これを実現するためのシステム要素として、ハードウェア的にはLLD、運用的にはSDN/NFVの自律オーケストレーション、監視指標的には各種の遅延・ジッタ―項目のビックデータ的な解析が重要になると思われます。

我が社としても、自律オーケストレーションを実現できるソフトウェアの開発・提供、及び、既存監視製品への遅延・ジッタ―指標の追加・拡充が今後の課題です。

COVID-19以降のリモートワークの普及・浸透により、インターネットのトラフィックが大きく変質しています。グループワークツールにはリアルタイムコミュニケーションアプリが前提になりますから、自動運転やIoTリアルタイム制御の普及を待たずして、低遅延・少ジッタ―は今後更に重要性を増していくものと思われます。

余談的な紹介になりますが、米国EDTの10月14日(水)09:30AM-10:30AMに開催された”The Network Cloud: Do You Know Where Your Edge Is?”のテーマであったエッジコンピューティングの目指す所の一つが低遅延であり、今後クラウドが向かう方向性の一つである事を考えても、遅延・ジッタ―への真剣な取り組みは、今後益々脚光を浴びて行く事でしょう。そういう意味でも、正面から取り組む価値のあるテーマだと、私は思いました。